第2回SDGsに関する座談会 – “Planet” グループのSDGsに関して:概要

[概要]

今回のSDGsシリーズは、第2回目として、第2のP であるPlanetに焦点を当て、そのグループの中の一つの目標に焦点を当てるのではなく、Planet の中の5つの目標がどの様に関わり合い環境改善をもたらそうとしているか、またその全体像の中で幾つかの目標やターゲットがどの様に、他の条約や国際プロセスと関わっているかを、座談会という形で基調講演の他にお二人のパネリストからお話を伺った。基調講演ではUNDPのGEF Small Grants Programmeのグローバルマネージャーである渡辺陽子氏にSDGs と環境の全体像を話して頂き、その後AFICS-Japan 会員で現在もIPCC で活躍されている近藤洋輝氏にSDGsにおける気候変動の関わりを科学的知見からお話し頂き、また、生物多様性条約事務局で生物多様性日本基金のグローバルコーディネーターである鈴木渉氏にはSDGs 14 ・15 との関連で生物多様性について話して頂いた。

講演の概要は以下のとおりです。

***

基調講演: 「SDGsと環境の全体像」
渡辺陽子氏, UNDP、GEF Small Grants Programme グローバルマネジャー

まずSDGs全体の説明があり、それらはBottom-up の過程を経て合意され、途上国のみでなく、加盟国全員で進めて行くものである。特に地球環境に関しては、先進国がリードして進めていかなければならないという見解がある。 Planetグループのほとんどを形成する自然資本に関しては、Stockholm Resilience Centre Rockstrom Sukhdevが提唱したSDGsのウェディングケーキを紹介し、SDGs 6, 13, 14, 15 から成る自然資本が社会的、経済的な発展の土台となっているとした。また、同じRockstromは、地球の環境容量というものを毎年発表しているが、生物多様性、気候変動と窒素の循環に関してはすでに許容量を超えているとし、彼にSukhdevJeffery Sacks が加わって、この観点からもSDGsを強く推進しようと主張している。生物多様性に関しては、後で鈴木氏からより詳しい説明があるとしながらも、もともとある自然喪失の千から一万倍の速さで生物が絶滅しており、4万種(生物の28%)が絶滅の危機にあるとした。気候変動は気温だけでなく、水の減少ももたらすため、生物多様性の5大脅威の一つである。生態系サービスが人間のwell-being をもたらすが、そこに投資を促すために、生態系サービスの経済価値を図ろうとする研究が2000年頃より行われている。また、気候変動については、後で近藤さんより詳しくお話があるが、現在のCO2排出量は1990年と比べても倍増していて、何らかの政策を行わないと、very high emission シナリオの様になり、経済的・社会的影響が大きい。IPCCも何度上がったら、どの様な側面にどの様な影響があるかということを具体的に示している。パリ協定に関しては、途上国を含む全て絵の主要排出こくが削減目標を持ち、各国による自主的な取り組みを促すアプローチが画期的だと指摘した。この様な地球環境に対する地域ベースの解決策をもたらそうとしているのが、UNDP GEF Small Grants Programmeである。1992年より30年続いていて、ほぼ全部のカントリーオフィスでプロジェクトを持っている。今までに26000件以上のプロジェクトを行い、$7億の資金を使ってきた。コミュニティ主導の地域に根差したプロジェクトを推奨する。農村や漁村など地域から消費や生産行動の変化をもたらし(SDG12)、陸の豊かさ(SDG15)や海の豊かさ(SDG14)をもたらし、気候変動(SDG13)や安全な水の確保(SDG6)につながる様な循環をもたらすようなプロジェクトを推進している。一つの代表的な最近のプロジェクトはCOMDEKSというSATOYAMAイニシアティヴを支えるコミュニティベースのプロジェクトで、生物多様性条約の日本生物多様性基金をから資金を得ている。

近藤洋輝氏 元WMO
SDG 13: 気候変動について―気候変動問題のChallenge―

先ず、大気中のCO2について、工業化以前の1750年の推定値278ppm から2020年の413.2ppmまで49%も増加しているという状況を示し、気候変動の課題として、このまま増加しない様にするにはどうするかが焦点であることを確認した。また、第二次大戦後の研究の流れを追って、真鍋淑郎氏の研究などからIPCCが生まれ、またUNFCCCが合意され、SDG13に反映されている事に関して、科学的な研究の結果が政策決定に影響してきたことを指摘した。科学的な問題の提示として、温暖化ガスは大気の0.07%に含まれているのみだが、これらがないと平均地上気温は-19℃となり生物は生息できなくなる。大気全体を考えればすごく少ない割合だが、そのバランスが崩れていることが問題である。IPCCが示そうとしてきたことは現実と原因特定であるが、第4次評価報告書で「気候システムの温暖化には疑う余地がない」として「温暖化」の現実を断定した。 また、今回の第6次評価報告書では、「人為的な影響により、大気、海洋、陸面が温暖化してきたことには疑う余地がない」として「温暖化」の原因特定をした。UNFCCCについては、1992年に採択され、1994年に発効したが、第3回締約国会議で京都議定書が採択され、先ず、先進国のみに削減義務を与えた。ところが、2000年以降になると、途上国、特に中国の排出量が急激に増加し、米国とEU諸国の合計よりも多くなってしまった。そこで、全員参加で共通の目標として1.5℃〜2℃に制限することを目指し、2015年にパリ協定が合意された。今後の課題として、パリ協定には2023年以降5年ごとに実施状況を検討するという条項があるが、現在の努力目標では2100年に2.5℃〜2.8℃上昇してしまうので、努力目標を変える必要がある。また、大事な事は2050年までに排出量を実質ゼロにする事で、EU、米国、英国、日本はこの目標を掲げている。中国は2060年までに実質ゼロとしている。

鈴木渉氏 生物多様性条約事務局
生物多様性日本基金グローバルコーディネーター
SDG 14 ・15との関連で生物多様性について

渡辺さんのご説明を深めるような形で話を進めたい。歴史的な流れを見ると、生物多様性条約は気候変動枠組条約や砂漠化対処条約とともにリオの地球サミットを契機として誕生した。そのため、これらの条約は「リオ3条約」とも呼ばれる。それ以前にも、湿地を守るラムサール条約とか、野生生物の取引を規制するCITESなどの個別の国際条約はあった。地球サミットをきっかけに、深刻化する地球環境問題に取り組むためには、地球環境問題に取り組むための包括的な枠組み条約が必要という認識が共有された結果といえる。生物多様性条約の目的は、保全、持続可能な利用、遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分の三つ。1番目の目標は比較的良く知られているが、2番目と3番目の目的があることで、条約は生物資源、利益配分、権利などにも関係する、かなり広範で複雑な条約となっている。条約の意思決定機関である締約国会議は、文字通り締約国により構成されており、政府主導の交渉の場といえる。また、米国が締約国でないので、どうしても議論がEU主導になる傾向がある。これまで14回の締約国会議が行われたが、第10回目(COP10)は愛知県名古屋市で開催された。2011―2020の生物多様性戦略計画、愛知目標、国連生物多様性の10年、SATOYAMA イニシアティブなどが合意された。これまでの締約国会議の中でも大きな成果が得られた会合とされている。また、これまで条約の第二の目的の実施を進める取り組みが弱かったが、アジア的な視点で、生態系を持続可能な形で使いながら守る「Satoyama」の様なアプローチもあるのではないかという提案がCOP10で提案され、認められた意義は大きい。その後、インド(COP11)、韓国(COP12)が締約国会議をホストし、次のCOP15は中国で開催の予定。その意味で、アジア、特に東アジアがリードしているともいえる。生物多様性日本基金は、第10回締約国会議で採択された愛知目標等の達成のため、条約事務局による途上国の能力養成を支援する目的で設立された。日本政府が50億円の資金を拠出。当時の為替相場の関係で、米ドル建ての拠出額は約6千万ドルとなった。基金を管理するチームが事務局内に設立され、日本人職員2名を含むスタッフが執行を管理している。第15回締約国会議で採択される予定のポスト2020年生物多様性世界枠組の実施のため、10億円が新たに増資され、それをUNDPとCBD事務局が共同で実施する計画。こうした国連機関同士のパートナーシップにおいて、UNDPに渡辺さんのようなシニアな日本人職員がいることは大変重要。ポスト2020枠組はSDGsとも重なる部分が多い。条約は政府主導なのに対し、SDGsは全ての人が主役といえる。2030年に向けて、こうした国際的な枠組みが相互補完的な形で実施されていくことが理想。ポスト2020枠組はまだ交渉中であるが、今年中に採択され、速やかに実施が進むことを期待。

[質疑応答]

3名の発表の後は、質疑応答に移ったが、色々な観点から質問がなされ、環境に関する課題の理解がさらに深まったと思われる。質問の課題ごとに纏めてみた。

  • Small Grant Programme (SGP) に関して:

− SGPの特徴を話されたが、環境のプログラムを行なっている組織がかなり増えている中で、SGPのようなアプローチをしているところは他にもあるか?
− SGPの比較優位をどの様に捉えているか?
− 比較優位をより効果的にするにはどの様なことができるか?
− CSDなどでLearning Center をやっていたが、SGPのプロポーザルの書き方が一番人気だったが、Capacity Building の一環としてそのような指導もしているか?
− 何をやるかとか地域などで優先順位はあるのか?

渡辺氏によれば、ホットスポットとか生物多様性の観点からみて大事なところで20〜30カ国支援している団体はあるが、SGPのように世界128カ国で実施され、neutralな立場から最大5万ドルまでの支援を、30年間継続的に支援しているのはUNDPだけである。地域に根ざし、コミュニティベースのプログラムだが、今までの経験から政策へのアドバイスをしたり、地域レベルから国の政策レベルへつながる活動も支援している。また、プロポーザルに関しては、コンサルタントが書いた様なものは受け付けない。地域の団体が自分達のニーズに照らし合わせたものを出してもらっている。 毎年のようにproject development のワークショップはやっているが、この頃はIndigenous peoplesやwomen’s groupに特に重点を置いている。 また、読み書きのできない人達もたくさんいるので、最近video proposalというものも始めた。また、優先地域は特にはないが、拠出国からはSIDSや最貧国を優先するように言われている。資金規模が小さいので、この様なキャパシティーが低い国々では、とくに効果がよく見え、政策へのリンクも見えてくる。

  • 環境について:

− Rockstrom のPlanetary Boundary の説明があったが、いくつかの点で許容量を超えているということだが、それはどういう意味か? もう戻れないのか? 悲観的にならないといけないのか? Mitigation よりadaptationをやった方が良いのではないか?

渡辺氏は、Rockstrom達が言っているのは、このまま何もしないでいるとさらに大変なことになると警告しているが、行動を変えればoption はあると思うと述べた。悲観的になればなれるが、なるべくoptimisticに考え、行動に移していく必要があると思う。温度の上昇を2℃に止め、できれば1.5℃に抑えるということも、主要なセクターが連携・協力すればできるはずだと思っている。

鈴木氏によれば、環境が劣化すると、紛争が増えたり、食べるものがなくなり、水がなくなり、結局は人類の生存が危うくなる。環境条約を守るということは、裏返せば人類自らの暮らしを守るということでもある。魚類などは産卵数も多いので、その種が絶滅しなければ、比較的個体数はすぐ回復する。現在の人間による活動自体に問題があるといえる。

また、近藤氏は考えようによっては悲観的な状況であることはあると述べた。IPCCは以前から道を示していたが、第6次評価報告書 (AR6) になると、ごく狭い道しか残っていないのが現実である。この先どういう風になるかは「見もの」だと思っている。これは、人類が愚かであるか賢いかを試されているのだと思う。温暖化に関しては道はあることはある。

  • 政策の連携について:

− 温暖化によって、海の中の生物が影響を受けたり、珊瑚の白化が起こったり、また砂漠化が進んだりしている。 それぞれの条約で扱っていることが重なっていたり影響を与えたりしていると思われるが、そのようなことに関しての政策のlinkageはどの様に扱っているか?

鈴木氏は政策との関連に関しては、気候変動枠組条約のアプローチが奏功していると指摘した。IPCCが最初のアセスメントレポートで「海面が3センチ上昇する」と発表すれば、直接影響を受ける太平洋の島嶼国が積極的に政策形成に参画する。ターゲットとなる将来の気温上昇の上限を1.5℃、2℃などの具体的な数値を示していることもわかりやすく、catchy。また、「石炭か、否か」と踏み絵を踏ませる様なアプローチもある。生物多様性条約もこうしたアプローチを学ばなくてはならないし、他の条約との連携も強化する必要がある。

近藤氏は、IPCCの三つの作業部会に触れ、Iは科学的知見の追求だが、IIはimpact, adaptation, vulnerability, IIIはmitigationで色々な技術の追求をしていると述べた。Carbon captureや geo-engineering だったり、また核融合の研究も日仏で進められている。これらの情報は政策に反映される。

  • 食糧と環境:

−食糧生産と環境保護は両立しないという見方が多かったが、このままではいけないという見方が食糧分野からも出てきた。昨年の食糧サミットでこの二つが両立するというコンセンサスができたと思っている。環境の方からは、どの様に見ているか?

渡辺氏は、SGPもサミットに参加したと述べ、農業は生物多様性の減少、気候変動に対しても、一番の要因となっており協力して対応する必要があると指摘した。自然資源のsustainable use というところで、食糧・水・エネルギーのnexus が強まっており、’環境への考慮も高まっていると思う。環境分野からすると、農業を如何に環境を考慮して進めていくかが大きな課題。SGPでは Indigenous knowledgeを復活させ、自然資源を持続的に利用することにより、food securityを確保するという様なことも支援している。農業・森林分野は、生物多様性や気候変動に対してthreatsではあるが、同じ自然資源を利用・活用しているという意味で、一番身近なパートナーでもあると思っている。

鈴木氏によれば、食糧生産との関連は非常に重要である。IPBES (Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services) という、生物多様性版のIPCCともいわれる科学-政策パネルのレポートによれば、先進国の消費が途上国の生物多様性の減少に大きな影響を与えている。一般的には、生物多様性はまだ絶滅危惧種や保護区の問題ととらえられることが多いが、実際には、先進国における消費や流通の過程で生ずる食品ロスの影響も無視できない。そうした社会経済的な課題に、いかに有効な形で政策的に関与できるかも重要。その切り口のひとつはまさに食糧で、そこにうまく関与できていないということが現在の大きな課題の一つといえる。

近藤氏は農業に関しては、第2作業部会で、適応に関しての議論がなされていて、どのような適応の政策の研究という分野になっているが、色々な提案がされているが、今後も深められると思うと述べた。

  • 最後の一言

渡辺氏は、的確な政策形成や、人間の行動や消費パターンを少し変えることで、環境問題の現状を変換し、加速することができると指摘した。今回もCOVID-19の最初の頃にCO2が減ったり、的確な保全活動を通じ生物多様性や生物種が復活することもあり、Optimisticに構え行動を進めていきたいと思う。また、官民一体となりintegrated なアプローチをとり、より私企業も参画して、共にパートナーシップを進めてやって行くのが大事だと思う。SGPから学んだことでもあるが、コミュニティベースで一人一人の意識や行動の変化が大きな変化をもたらすと思う。大きなプロジェクトが効果的なわけではなく、”Small grant, big impact” と言っているが、一人一人の一歩が全体を変えて行くような活動をこれからもサポートして行きたい。

近藤氏は、先ず、国際的なプロセスの中で、事務局がいつも良い仕事をしていることに感謝すると述べた。そして、国際社会は捨てたものではないと指摘した。人間は愚かではなく賢いとなってほしいと思う。 気候変動に限らず、このSDGs全てにおいて、人間の賢さが試されている時代になってきたのではないかと思っている。

鈴木氏は、環境分野と一口に言っても、環境分野の政策形成だけでは、実際に社会に有効な変化をもたらすことは難しいと指摘した。例えば、生物多様性条約の日本基金が、UNDPの渡辺さんと繋がって初めて資金がコミュニティまで届けられ、有効なプロジェクトが実施できている。日本から外に出てみて、条約の事務局のようなところにいると、少し視点が変わり視界が開けてきた印象を受ける。環境分野についてはまだまだフロンティアは残されている。こういうところで、国連・国際機関における日本人のネットワークがうまく使えると、突破口が見えてくると思うと考える。

(記録 髙瀬)