AFICS-Japan 第一回オンライン講演会

 

AFICS-Japan 第一回オンライン講演会は講師に関西学院大学国連・外交統括センター長、日本国際連合学会理事長である、神余隆博元国連大使をお招きし、「コロナ後の世界と国連:日本の役割」という演題で20201020日に開催した。会員の他に現役職員も含む44名が、日本国内各地、及びニューヨーク、フロリダ、バンコクなど海外の都市から参加した。

最初に明石康AFICS-Japan 特別顧問より開会の挨拶があり、Pew Research Centerからの日本の国連に対する関心が低下しているという衝撃的な調査結果発表の中、国連研究の最先端をいかれる神余大使が「コロナ後の国連:日本の役割」という野心的なテーマを話されることに興味津々であると述べられた。また、長谷川新会長の下の新執行委員会への励ましのお言葉と伊勢桃代前会長や共に辞められる委員の方々への感謝の意を表された
 

神余大使は先ず安保理を含む国連の機能低下の状況を指摘した。特に大国(米中ロ)が絡む問題は利害調整が困難で進展していない。事務総長提案のCOVID-19停戦決議や第三委員会でのウィグル自治区の人権状況と香港情勢をめぐる対立などの例を挙げて、安保理や総会の機能が低下し分断が進行していることを挙げた。また、米国と中国の対立による国連への信頼性の低減や、人権理事会の選挙結果に見られる人権軽視の傾向に対する危惧などを述べた。

日本に関しては、大国から「ミドルパワー」になる分岐点にいると指摘された。ドイツはだいぶ前から「ミドルパワー」としての外交を展開していて、それを効果的に使っている。また、Pew Research Centerの調査では日本人の国連への関心度が下がっているが、昨年から今年にかけてグッと落ちた。これには、WHOのパーフォマンスが悪いという事、国連における米中対立、そして日本の置かれている安全保障の観点からすると、日本が頼るべきは国連ではないという考えになっている事が影響している。そして、日本での国連に関する意識は、日本は貢献してきたが、国連から何を得たかということは明確ではなく、COVID-19という正に国連を必要としているときに、WHOがうまく機能していないという状況になっていて、その結果関心度が下がっているのではないか。これは、全世界的に感じられていることの様で、その結果、今年の75周年は盛り上がりに欠けている。国連は多国間主義に基づいて、日本一国では解決できないこと、例えば、SDGs、気候変動、感染症など多くの地球規模の問題に取り組んでおり、最低100周年までは存在すべき機関である。日本人の支持を回復するためには、政府はもっと国連からの恩恵を広く国民に知らせるべきである。それには、政治の役割、教育の役割、市民社会の役割があるが、最も大事なのは、政治の役割である。日本の政治家が国連機関の要職に就く事が大切だと思っているが、現在、自民党の甘利・税調会長が会長を務めるルール形成戦略議員連盟はこの問題に取り組んでいる。

最後に、日本は何をすべきかということに関して五つの考えを述べたい。先ず、マルチラテラリズムの戦略的強化が必要だ。独・仏・カナダなどが中心となって、”Alliance for Multilateralism” というものを作っていて、日本も参加しているが、これをもっと積極的に且つ戦略的に活用すべきである。第二に、安保理改革は進めなくてはならないが、常任理事国になるという考えは捨てて、二段階改革論へ転換する。 第一段階では2025年までに準常任理事国を創設し、第二段階では2045年の国連100周年に常任理事国を見直す。第三の点としては、軍縮のメインストリーム化を行う。恐らく中満軍縮上級代表の働きかけもあったと思われるが、グテレス事務総長は軍縮に関心を持っていて、2018年に「軍縮のためのアジェンダ」を公表している。国連軍縮特別総会を開き、常任理事国や核保有国に対して圧力をかける時期にきている。第四には日本の新しい国連外交として、長期計画を作る。最低限2045年までの長期計画を作り、常任理事国志向から、今まで遠慮してきた国連事務総長、国連総会議長、各種国連機関のトップを目指す戦略へ転換する。また、非軍事的安全保障の分野でのルール形成戦略や、国連専門機関へのハイレベルでの人的関与を行う。そして米国を連れ戻すために、人権理事会、WHOUNFPAなどの改革を行う。最後に、第五として、日本は財源がもうあまりないので、カネよりも人材の戦略的な投入を行う。この点に関しては、政府と民間が一体となったノルウェー型人材活用が参考となる。大学においては国連人材育成を強化し、現在912人であるP-level以上の邦人職員を、増強計画によって2025年までに1000人に、更に2045年までにはそれを倍増し2000人を目指す。


その後コメンテータの池上氏からは、所属していた
UNFPAから見ると、米国の政治的スタンスによって拠出が大きく揺らぐ点が指摘された。現在米国からの拠出は全く無く、ヨーロッパに頼っている。決まった拠出金の無い組織(特にFunds and Programmes)では、政治的なニュアンスが重要視されてしまう。また、ミドルパワーの話が出たが、日本は以前は第2位という大きな拠出国であったが、最近は10位を下回りそうな感じである。このため、ミドルパワーとしてどの様に振る舞うかは大きな課題となっていると思われるし、また同じ様な問題を抱えている機関は他にも多くあると思われる。お金だけでは無く、職員を送り込んで日本の存在感を拡大するという考えは大賛成である。組織のトップを取るということだけでは無く、P5D1D2という実際に仕事をするレベルであり、組織の意思決定が可能なランクに日本人が増えることが大変重要だと思う。外務省に国際機関人事センターがあり、国連機関への就職を希望する日本人へのサポートをしている。国際保健の分野に特化すると、厚労省が中心となり外務省とも協力して、国際保健のための人事センターを作り、P5以上の人材を発掘して送り込もうとしているが、その様な体制や組織は必要だと思う。

もう一人のコメンテーターの忍足氏は、日本人の国連への関心の低さが気になるが、一般の人には国連の全体像を掴むのは難しいと思われると指摘した。日本のメディアを見ていると、米国、中国、韓国、ロシアがほとんどで、他の世界は扱われていない。世界の繋がりを報道しないので、日本の人は世界で何が起こっているかを聞く事がなく、関心もない。ありがたいことにWFPがノーベル平和賞を受賞したが、それも、その受賞の日の晩のニュースと翌日の朝刊止まりで、それ以降は何も無く、日本人が受賞しないとニュースにならない様だ。この様な中でMultilateralismの重要性を教えることはとても難しいが、今回COVID-19のおかげで、これが1ヶ月、2ヶ月のスピードで世界を駆け巡ったことにより、世界が繋がっていることが実感できたと思う。そこで、なるべく日本国内の事だけでなく、世界でどうなっているかを報道してほしい。世界が協力して立ち向かわなければ、オリンピックどころではないし、以前の開けた世界には戻らない。どうにかして、国際協力の重要性がわかる様に導くことはできないかと考える。

この後、長谷川会長がモデレートし、参加者との間で活発な質疑応答があった。発言された方々の名前を挙げ、その内容を最後に長谷川会長がまとめた。大きく三つに纏めらた。(1) ピュー・リサーチ・センターが行った国連に関する世論調査の結果 の意味は何か?(2) 国連における日本のプレゼンスを向上するにはどうしたら良いか?(3) 日本が貢献できること、今後の国連での役割は何か?

ピュー報告書に関しては、国連の機能低下やメディアの扱いなどに関して意見が出たが、長谷川会長は追加として、Pew Report 32番目の質問で、国際協力に対しての重要性に関しては、日本は3番目に高かったことを挙げた。これは日本人が多国間外交や連携の重層性を認識している証である。2番目の日本のプレゼンスを増やす事に関しては、そこで鍵となるのはただ単に数を増やすのではなく質も向上させなくてはならないというで、そのためには日本人の謙遜の美という様な良い点を保ちながら、足りない点を補うことが重要だ。自民党は現在、この点について取り組んでいて、外務省に提言をしている。また、長谷川会長は先週外務省の山田重人総合外交局長に会って、この点を聞いたところ、日本政府としては、日本人のプレゼンス、特に高い地位でのプレゼンスを高めることに尽力したい、尚且つ国連機関のトップに送り込む努力を惜しまないとの意気込みを話されたと述べた。それと同時に、D1からD2、そしてASGになるための人材育成を今後も続けていきたいということだった。最後の日本の貢献と役割に関しては、神余大使が日本のミドルパワーとしての役割について二つ言われていた。一つには安保理の改革だが、常任理事国には執着せず、二段階改革論に切り替える。そして、長期計画で、今まで遠慮してきた方向にエネルギーを向ける。また、非軍事的安全保障の分野でのルール形成を行い、

ECOSOCの改革や強化、地球市民会議や国連議員総会の設立なども視野に入れる。

最後に明石特別顧問が「官」と「民」が一緒に考えアイデアを出して国連改革案を施行していくことによって日本の国連外交の向上に貢献できるとの見解を示された。そして AFICS-Japanがこのような会合を続けていくことを願っていると述べた。

  • 講演会の録画(主な箇所の編集版):

 

 

  • 参考資料:上に掲載の資料の初めの5枚のスライド中、時間の関係で触れることができなかった国連改革に関して、神余大使が議長として世界連邦国会委員会へ報告された時のビデオメッセージ: