オンライン国連年金セミナー(Zoom)

日時:2021年1月16日(土) 10:00-12:00 (日本);1月15日(金) 20:00-22:00(NY)

佐藤純子副会長が進行役を務め、永吉紀子執行委員がMCを務めた。先ず、新年の挨拶を明石康特別顧問が述べた。明石氏は新年の言葉の後、新型コロナウイルスがまだ脅威をふるっているが、明るいニュースとして、日本でも早くは2月末から開始されるワクチン接種など具体的な希望も出てきているし、世界的にはアメリカでは政権交代があり、グローバルな見方が世界で広がる望みがあり、WHOの調査団も武漢に調査に入ったと述べた。そしてグローバルな物の見方の中核として国連があり、その中で仕事をした我々はプライドを持てるとした。最後にAFICS-Japanが長谷川新会長の下、活発な活動を続けて行くことにエールを送った。

 

第一部:国連年金運用の近況

MCの永吉紀子執行委員が、進藤氏の経歴を紹介した後、進藤氏がOIMと年金運用の投資状況を説明した。(詳細はパワーポイントを参照。)

最初にFUND GOVERNANCEの説明として、年金基金が二つの別組織から成り立っていることを説明。基金の資産運用はOIMが、年金事務はFund Secretariatが遂行し、運用のHeadは事務総長代表(Representative of Secretary-General)で、運用についての究極のFiduciary Responsibilityは国連事務総長が持つのに対し、Fund SecretariatPension Boardの管轄であると説明した。

続いて進藤氏はOIM 目的と挑戦として、運用目標が長期実質リターン3.5%であることを述べ、これは米国のインフレ率(現時点では約1.5%)を差し引くので、名目リターン5-6%を継続的、安定的に達成することだと説明。現在の資産残高はUS$ 80 Billion(約8兆円)で、直接、間接的に約100の国や地域に投資している。株、債券、不動産、

Real Assetsなど、複数のアセット・クラスに分散投資している現状を説明。さらにOIMは大半の運用を外部に委託せず[1]職員が行っており、これは年金運用としては珍しい体制であると述べた。 

直近の報告として、2020年は12.36%の名目リターン(米国CPI-1.3%)を達成し、実質10.9%のリターンだったので、7%を超える超過収益となった。過去50年、どの投資期間を見ても、目標の3.5%を超えるリターンとなっており、投資の一番大事な目的を長期間達成していると説明した。進藤氏はもう一つの安全性と健全性を示す指標として、年金数理計算をする上で決められている過去5年の資産額平均と比べて2019年末が107であったことを述べ、これは7%のsurplusがあったことであると解説した。

世界的に見て国連年金基金の資産残高ランキングは世界で65位(2019年末)。進藤氏は比較として国連の年間通常予算がUS$ 3Billonであるから、UNJSPFが4% のunder fundedになり、それを加盟国がカバーするとなると1年分の国連予算が消えるくらいのインパクトがあると解説された。金融市場でも存在感が大きく、さらに、国連という名がつくだけでメディアが注目するのでESG[2]への配慮やSDGs[3]が話題となる中、外部に向けたメッセージにも気をつけなければならないと述べた。

進藤氏は次に、資産運用の指標と戦略がどのように決定され実行されているか、昨年の9月末の結果を元に株式や債券との配分、不動産やPrivate Equityへの資産配分変更の難しさ、リスク配分の指標などを説明した。さらに為替リスクにも言及した。

そして現在の最大の挑戦として、低金利あるいはマイナス金利の下での運用の難しさを解説。それは80年代以降、実質金利が低下を続け、債券投資中心に株を少し加える程度では年金のsustainabilityが確保できず、構造的に実質3.5%リターン達成が困難となる中、株式等のリスク資産に大きく投資をせざるを得ないが、その価格変動が大きくなっているため、Fund資産残高の変動が大きくなる可能性とどう向き合うかという事とESG Integrationや, SDGsの目標達成にどう貢献できるかという課題がある。UNJSPFはGlobal Compact、UN PRI [4]の設立当初からのメンバーであり、世銀の発行したGreen Bondに当初から投資、2014年には環境関連のIndexを使ったETF [5]に投資している。今後、投資家が足並みをそろえてESG目標達成の努力をするのが効果的と思われるが、国連年金基金としては、実質リターン3.5%という命題がある中で、特に短期的には両方の目標の同時達成に苦慮すると述べた。

[1] In-houseの比率は84%

[2] Environmental, Social and Governance

[3] Sustainable Development Goals

[4] Principles for Responsible Investment

[5] Exchange Trade Fund(上場投資信託)

 

次に質疑応答に移った。

東山:国連で働く人数は増えているものの、staffとしてのcontractを得るのが難しい中、拠出金確保が難しいのではないか。運用面から見て、どの位の拠出金が必要か。

進藤:それについてはFund Secretariatの方が詳しいはずだが、若い人が入って来ない中で給付は増えており、足元、若干の支払い超過となっているがその額は小さい。この先10年くらいは支払い超過が非常に大きくなるリスクは低い。長期的には、支払い超過が拡大するとLiquidityを高めなくてはならないので、Durationの長い投資をすることは困難になるかも知れないが、20~30年先のことだろう。

長谷川:新しいスタッフの増加は想定しているか。International Staffの増加はどの位と想定しているか。

進藤:それは年金数理の分野の話なので、専門外のため、分からない。

森田:不動産投資とは実際どんなことをしているか。外に向けてのメッセージとしては、どういうことに注意しているか。

進藤:不動産については、Office、小売、倉庫、住宅などの色々なSub-Asset Classに投資するファンドに投資している。外向けメッセージの充実の為、ESG関連で2つの新ポストを申請したり、OIMのWebsiteでESG関連の情報発信をしたり、メディアからのfeedbackに注意を払っている。

川村:実質リターン3.5%の目標を決める基準、Internal/External managementの比率を決める基準は何か。金利低下、株高は金余りの現象で、今後の株式投資のリスクは大きくなっていると思うが、これから2~3年のストラテジーを聞きたい。

進藤:3.5%目標は、外部の年金数理アドバイザーが将来的な負債額を算出した上で、Committee of Actuaryと、Investments Committeeが協議し、Pension Boardで審議にかけられる。Internal/Externalの比率については、国連年金基金は昔からアウトソーシングに抵抗があり、他の年金基金よりInternal運用の比率が高い。それは国連のPoliticalな面やCultureを反映していると思われる。金余り現象については、株も債券もover valueになっている。価格変動も高くなっている。安全資産がない中での投資はchallenging である。その状況の中でも分散投資に努めているが、他の年金基金からの資金が同様に集まり、結果、投資リターンが低下している。リスク/リターンの観点から良い投資対象が見つかりにくいのが現状である。

明石:難しい状況の中、プロとして最善を尽くしているのがよく分かった。SDGsの時代において、政治的プレッシャーが続くという想定の中、どういう準備をしているか。

進藤:政治的に批判が出そうなのはESG/SDGs関連の分野だろう。実質リターン3.5%という命題がある中で投資を模索中。例えば、株式ベンチマークから、ESG/SDGsの観点から投資しないと決めた銘柄を外し、それに沿った運用をすることも考慮する。できれば我々国連年金基金主導でクリーンなベンチマークを作り、そこに他の投資家に参加を募り、UN投資の流れを先導できれば良いが、試みは始まったばかりである。

服部:全体の何%を米国企業に投資しているか。将来、中国の企業が資産の中に入る可能性は? また、1980年代には利子が15%という事もあったが、将来そうなる可能性は?

進藤:資産の内70%がUSD建てである。中国はベンチマーク内でのWeightが急速に高まっている。中国の国内株(いわゆるA株)が株式のofficialなベンチマークに入ってきており、国連年金基金でも存在感は高まりつつある。中国株のウェイトはエマージング市場の40%、基金の株式ポートフォリオの8%に達している。台湾株を含めると約11%になる。金利については、短期的には低金利の環境が続くと思われるが、過剰流動性の実体経済への長期的影響もあり、数年後に過剰流動性が原因でインフレが起こるリスクについては警戒をしている。

 

第二部Fund Secretariat、特にWebsiteUpdateについて

MCの永吉執行委員がプレゼンターのCristine Hofer Cartner氏の経歴を紹介した。

Cartner氏は、UNJSPFWebsiteで最近更新されたところについて、特に受給者と
UNJSPF間のコミュニケーションをスムーズにするToolについて紹介した。資料そのものが詳細な使い方説明となっているので、参照して欲しいとのこと。(資料はこのwebサイトに別途掲載。)また、Two-Track System については、Bangkok Office Brian Casatelli氏から説明があった。

MSS (Member Self Service )Retiree Tools

MSSは自身の連絡に最重要で有用なので是非登録(register)して使って欲しい。このサイトを通じて自身の書類をuploadすることで提出でき、郵送の必要がなくなる。特に有用なものは次の通りである。

  • Account
    住所、メール・アドレス、パスポートの変更など。
  • Disbursement
    これまでの全ての給付が記録されている。After Service Medical Insuranceの為に給付額が変動している場合などの確認に便利。
  • Documents
    税金申告時などに使える書類など。
  • E-Forms
    UNJSPFのofficial documentにつかう全てのformが収められている。自身でダウンロードしてから印刷して使用する
  • Proof Documents
    UNJSPFにCEが届いているか等をチェックできる。
  • Two-Truck Estimate
    2015年8月3日以降に退職した受給者から、ここで見積金額を入手できる
  • MSS Document Upload
    特にコロナ禍の中、MSSを通しての書類提出(upload)を推奨。どのような書類もpdfあるいは jpeg形式にすればuploadできる。書類原本(original)は郵送の必要はないが、念の為、家で10年間の保管を推奨。ただしこの機能を使ってメッセージを送らないこと。(下の Contact Us を参照。)

Annual CE Exercise
毎年5月に行われ、郵送或いはMSSを通して完了。Biometric dataを用いてスマートフォンからCE Exerciseを行えるシステムが2021年2月1日にgo liveの予定。(Digital CEと呼ばれる。詳細な説明をしているビデオはWebページで見られる。

Survivors Benefit
配偶者、扶養者が死亡した場合に残された遺族への給付。

Contacting the Fund

  • Contact Us
    問い合わせ用のFormがあり、オンラインでの問い合わせは、ここから行う。スタッフへの個人メールや、他の項目からの問い合わせには対応していないので注意。
  • 訪問問い合わせはCovid19の為中止中

The Pension Adjustment Fund-Two Track System

続いてBangkok OfficeのBrian Casatelli氏よりTwo-Truck Systemの説明があった。このSystemは受給者を、購買力変動と為替変動から守るためのもので、退職後の選択肢。一度Two-Truckを選んだら、生涯ドルベースには戻れない。給付額のインフレ調整は年一回(CPI>2%の時)行われる、または半年毎(CPI>10%の時)。

Two-Truckを選んだ受給者の給付額は毎月、ドル建て(US Truck)、Local通貨建て(Local Truck)の両方が計算され、多い方の額が給付される。ただし、Local Truckの110%を超える場合は110%が上限となり、一方、USD Truckの80 %の給付額は補償される。

Local Truckを選んだ受給者が、居住国を変わる場合は、Fundに報告のこと。Fundは退職時に遡って給付額を計算しなおし、居住国のLocal Truckに再計算しlocal通貨で給付。

最後に、その他、情報の得られるリンクと解説のビデオ、及びTwo-Truck Systemのサイトの説明があった。

 

閉会にあたり、長谷川会長の挨拶があった。会長は普段聞けないような有意義なセミナーだったと感想を述べ、今回学んだことの二点について整理した。それは、(1)基金の「持続性」(sustainability)という観点では、基金の財源だけでなく受給者の受け取る年金を守ることが出来るということであり、それが可能であると聞き、現在の受給者としては安堵しているが、「持続性」ということが若い現役の国連職員が将来引退するまで財源を守ってくれることを願っており、(2)基金の説明責任と透明性(accountability and transparency)の重要さを改めて感じたと述べた。これは、明石氏が言われたように究極的には政治的な意味もあるので担当者にはプロフェッショナルとして運営していただくとともに、政治的観点にも留意するべきと言われたことに賛同すると述べた。さらに年金について、究極的には国連への「納税者」である日本人、日本政府、そして世界の国々に説明できるようにするべきという点が強調されると述べた。その意味で進藤氏が “It’s responsibility to society as a part of international organization committed to social progress”と言われたのが印象に残ったと締めくった。

最後に高瀬千賀子執行委員が、今後の予定を述べた。

  • 2月6日(土)10:00-12:00(日本時間)、服部英二氏による新著『地球倫理への旅―力の文明から命の文明へ』についてのオンライン・ライブラリートークを開催。著名な方々によるパネル・ディスカッションも予定しているので、多数の参加を希望。
  • AFICS-Japanの年次総会はコロナ禍の中、3月にオンライン(メールベース)で開催予定。

 

講演者の経歴

進藤達氏

2004年 UNJSPFにAsia Pacific地域担当のInvestment Officerとして就任。2007年 Senior Investment Officerに昇進。 2009年 Deputy Directorに昇進、現在に至る。 投資専門家として25年間活躍。一橋大学卒、ニューヨーク大学でMBA。 Chartered Financial Analyst資格取得。UNJSPFの前にDeutshe Bank Trust Tokyo、Bankers Trust、日興証券へ勤務。

 

Cristine Hofer Cartner

2020年 Chief of the Fund, Client Services and Outreach Section (CSCS) NY, ジュネーブ、ナイロビを管轄。2009年 Chief of Client Service。UNJSPF以前は弁護士として、European State Agencyの人事部やEurope Coordinated Organization (including NATO, ESA)のJoint Pension Administration Sectionで勤務。UNJSPFではBenefit Officerとしてキャリアを開始。ドイツ生まれ。Pentheon-Assas University、ParisよりLaw Degreeを取得。

Brian Casatelli

最近設立された、UNJSPFのBangkok事務所にLiaison Officerとして就任。UNJSPFにてAccountやPayment Sectionでの経験、及び国連の他機関での職務経験がある。日本との時差の少ないバンコク事務所在中で、日本から連絡をする際の適任者との説明があった。