AFICS-Japan 第一回SDGs講演会

AFICS-Japan 第一回SDGs講演会
「SDG3: WHO西太平洋地域におけるコロナ対策」
11月6日
概要

AFICS-Japan 第一回SDGs講演会は、世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局長の葛西健 (かさい たけし) 先生をお迎えして、西太平洋地域でのWHOのコロナ対策のお話を伺いました。専門的知見、ローカルレベルでのご経験を兼持ち、グローバルに活躍される葛西地域事務局長から現在の西太平洋地域の課題、“将来”へ向けての危機管理の戦略、コロナの対応、国際協力など重要な視点からお話をいただきました。コロナ禍のような国境を越えて、経済活動、貿易など他の分野とも密接に関係するグローバルヘルスの問題でマルチのメカニズムと組織、そしてパートナーシップの重要性を強調なさいました。

この度、パンデミックの対応でご多忙を極める中ご登壇いただきまして、この場を借りて、葛西地域事務局長に改めて御礼申し上げます。講演の概要は以下のとおりです。

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<WHO西太平洋地域の多様性と急速な発展、その課題とパートナーシップの必要性>

WHO西太平洋地域事務局の地域は、37か国に人口19億人が住んでおり、人種、言語、文化、気候帯の多様性と急速に遂げた発展の2つの特徴がある。発展に伴い、高齢化など人口構成の変化、都市化、情報化、気候変動、格差拡大、感染症などの課題に直面している。これらの因子は国境を超える要素が多く、貿易、経済活動、人の移動などで人の健康が他の分野と密接に関わっている。そのため、グローバルな視点から、保健セクターを超えたマルチのパートナーシップが必要である。国際会議等で決議されたグローバルな課題に関わる解決策は、グローバルレベルから加盟国各国、さらに国内の地方自治体の努力までシンクロナイズされる事により、その効果が最大限生かされる。

<将来を見据えた危機管理>

急速でダイナミックに変化する社会では、”今日”の問題にだけに捕らわれれば、後手後手の対処になってしまう。”未来”への視点を持って危機管理を準備する必要がある。WHO西太平洋地域事務局は“For the Future”というWHOの優先課題を加盟国と共有し、“将来”の課題(健康危機管理、生活習慣病と高齢化、気候変動と環境保健、リーチング・アンリーチド)に向けて行動指針を掲げている。2003年のSARSの苦い経験から、15年に渡って健康危機管理を未来の課題として“準備する”危機管理計画を練ってきた。主なリスク(コロナとインフルエンザ、動物のウイルスなのか人間のウイルスなのかの区別、感染性、病原性、治療薬など)について、行動が発動できるところまで準備する。最悪の事態を想定して、リスク管理をし、未来への準備、対応案を考える。しかし、実際の対策実施は他分野への影響を考慮し、非常に慎重に行う必要がある。

<コロナの現状とWHOの対応>

デルタ株による感染流行で波を繰り返しており、現在、ヨーロッパを中心に第4波が広がり始めている。特にドイツとロシアで感染者が増えている。行動制限を緩和すると、急速に感染が拡大し、制限をかけると収まるという波がある。西太平洋地域は、他地域と比べ、感染を低水準で保ってきたが、第三波のデルタ株により感染流行が広がった。最近また減少傾向にある。どこかに流行がある限りどの国も安全ではなく、継続して流行があり得るので、次の波に備えなければならない。また、この地域では、最近2年間はインフルエンザが発生していないが、コロナとインフルエンザの両方の波に備える必要もある。

WHOの対応はSARS教訓で改訂された国際保健規則(IHR)に則っている。加盟国間の情報の共有と危機管理への対応能力を義務化、委員会の勧告に基づく緊急事態宣言の発動の責任と権限がWHO事務局長に付与された。グローバルな課題は国境を超えるので、情報の共有だけでなく、対策の共有が大事であり、WHOは定期的に大臣レベルの会議を通して、各国からの情報と対策を共有するマルチのメカニズムの役割を果たしている。

また、WHOは加盟国への支援として、早期検出、接触者追跡, 検疫、隔離、医療提供体制の強化、コミュニティエンゲージメント、コミュニケーション、物質の支援などの対応をしている。また、ワクチンの開発、製造、認可、供給を加速すため国際協力体制を構築し、その一環としてCOVAX Facility、ワクチンを共同購入する国際的仕組みが成立した。

<地域戦略―安全で健康的な西太平洋地域を維持するための体制の構築>

WHO はIHRの実施計画の構築、体制の構築と整備に努めてきた。長期の計画を立ち上げ、毎年進捗状況を確認している。Covid-19への短期的対応と合わせて、ゼロコロナからコロナとの共存へ移行するにあたり長期的対応をしていく。それは、バランスを採りながらニューノーマルへ向けて、常に学びながら新しい感染症に強い社会作りをしていくことである。イノーベーションを追求し、SDGsの理念を追求し、世界中の連携が望まれる。

WHOは、このような活動を支えるスタッフの “観察する力”  “質問する力” “共感する力”を高める人材育成に努力している。

(記録 山崎)

葛西健 世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局長の講演