AFICS-Japan 第二回オンライン講演会

 

ニューヨークに在留中のAFICS-Japanの佐藤純子副会長が総合司会役として、山本忠通、元国連事務総長特別代表を招待して、アフガニスタンでの勤務経験を基にして、国連と日本の役割や制約について感じたことをお話しいただくことになったいきさつを説明した。そして、AFICS-Japanの特別顧問でありカンボジア・旧ユーゴスラビアで国連事務総長特別代表をなされた明石康先生と長谷川祐弘会長の三人の元国連事務総長特別代表の方々に国連平和活動を指揮されてきた経験を踏まえて、参加者と意見交換をすることの意義を述べた。そのうえに、日本の国連大使と人道支援担当事務次長を務められた大島賢三大使と国連大使であられた神余隆博大使と吉川元偉大使も参加され現職の甲木浩太郎内閣府国際平和協力本部参事官が加わって下さったので、非常に有意義な意見交換が行われ、オールジャパンで国連における日本の存在と日本人の活躍の向上に寄与できることを願っていると述べた。

そして、講演討論会の進行方法として、まず初めにAFICS-Japanの特別顧問である明石先生より簡単なご挨拶をしていただき、その後で山本忠通大使に基調講演していただくと説明した。山本忠通大使は、1974年外務省に入省、北米局北米第一課長、在韓国及び在米国大使館政務公使、ユネスコ日本政府代表部特命全権大使、アフガニスタン・パキスタン支援担当政府代表、ハンガリー国駐箚(ちゅうさつ)特命全権大使などを歴任なさった。2014年10月から国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)の事務総長副特別代表、そして2016年3月から2020年3月の任期満了まではアフガニスタン担当の国連事務総長特別代表兼UNAMA事務総長特別代表をなさっておられたと紹介した。

Photo: UN

山本忠通大使・元国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)元国連事務総長特別代表は、まず国連の比較優位として、国際社会を代表する正当性、人間の尊厳を重んじ人間社会が達成すべき指針を掲げる価値観、そして不偏性に基づく信頼を強調した。最後の点に関わる不偏性については、アフガニスタンにおいてタリバンとも対話を重ねることに対する干渉を防ぐ原則となっている。また、多数国を関与させる能力も国連の比較優位な点である。例えば、今年に入って米国による働きかけでアフガニスタンの和平に動きが出てきたが、それは米国とイランとの交渉を国連が仲立ちしたことが大きく寄与している。一方、国連の弱点としては、メンバー国の思惑次第で和平プロセスを思うように進められない事態に直面することがあり、またマンデートの縛りもあり新奇なイニシアティブをとりにくいという点が挙げられる。また、自らが掲げる価値への過信(Self-righteousness)に陥りがちであることも挙げられる。例えば、アフガニスタンにおける女性の地位向上に対する取り組みにおいて現地での困難さによる遅々とした歩みを十分な考慮なしに批判をしたり、選挙においては敗者を顧り見ない勝者総取りの社会状況であることへの視点を欠いたまま成熟した民主主義国と同じような対応を求めることなどが挙げられる。さらに、国連各機関、とりわけ高い専門性を掲げる国連専門機関は国連組織内で調整されることへの抵抗感が強く、一体感を持った取り組みが困難なことがある。

続いて、山本大使は、国連における日本の立ち位置を考えるにあたっては制度的な面からではなく、実質的な面から考えていくことが建設的であるとの考えを示した。例えば、ノルウェーは地道にタリバンとの意思疎通を続けて来ており、また、スウェーデンは女性の地位向上や子供の保護において献身的に支援しており、これらの取り組みは国連内において高く評価されている。さらに、国連をめぐる現状認識として、気候変動や感染症対策といった喫緊の課題を抱え国連の役割が注視されているが、グテレス事務総長も示しているように、米国と中国を軸に2つの異なるパラダイムが作られてしまうのではないかと述べ、換言すると、民主主義・自由主義が挑戦に晒されている懸念を提起した。日本としては、人間の安全保障基金や平和構築委員会といった既存の制度を活用して、同様の価値観を共有するlike-mindedな国々と連携を深めていくこと、同時に日本国内での支持を固めていくことの必要性を論じた。具体的には、信託統治理事会に代わって、安保理のように通年開催する新たな理事会(例えば、グローバル問題理事会(仮称))を設立することを志向してみてはどうかとの提案がなされた。

最後に、邦人職員の増強に触れ、幹部職員と一般職員とを分けて対策を取ることの有用性を述べた。幹部職員を増強するには、まずポストの狙いを定めることと、誰が選考に当たるのかに習熟することの重要を述べた。また、一般職員については、現行システムではロスターに載ることが必要であり、そのためのトレーニングを提供することの必要性を説いて基調講演を締めくくった。

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明石康元国連事務次長は、国連では人事において政治的な要素が介在し能力本位の人事は難しいことを指摘した。自身の経験として、D-1レベルまで国連にて勤務した後、日本政府国連代表部にて大使職も含め5年間の勤務を経て、ワルトハイム事務総長時代に広報担当事務次長として国連に戻ったことを述べた。このような事例から、日本政府としては邦人職員の増強のためにもっと弾力的な対応ができないかとの問題提起を行った


また、邦人職員の増強とりわけ幹部職員の登用促進には、国際性を持った知識階層の充実が必要であり、急がば回れの精神で長期的ビジョンに立った戦略が必要との認識を示した。

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大島賢三元国連大使・人道問題担当国連事務次長は、自身のアフガニスタンでの人道支援の経験を述べ、タリバンがどのようなかたちでアフガニスタンの政治に参画し、国際社会としてはどう対応するのかとの問題意識を提起した。また、自身のアフガニスタンでの経験から、タリバンはイギリス、ソ連、アメリカといった外部からの侵略を防ぐために身を挺して対処してきた側面にも目を向ける必要性を述べた。


安保理改革については、日本が常任理事国入りを目指すアプローチを取り続けても、中国が容認する見通しは立たず、よってより現実的・建設的な取り組みが必要となると論じた。気候変動や感染症につき恒常的に取り組む仕組みがないため、信託統治理事会に代わって例えば人間の安全保障理事会を設立し日本が主導的役割を果たすことを考える必要性を述べた。それには憲章改正が必要となるが、その際に敵国条項の削除も盛り込むことも併せて働きかけることを提言した。

人材育成については、オンライン道場を創設し、必要なスキル育成に取り組むとともに、オールジャパン体制で、どの機関でどのタイミングにどのポストが空席となるのかを把握し、当該ポスト獲得に向けた取り組みが必要との考えを示した。また、人道問題担当国連事務次長時代の経験から、財政拠出をちらつかせながらポスト獲得に向けてアプローチしてくるケースもあり、人材育成のみならず財政面からのアプローチも併せて活用する必要があるのではないかと述べた。

afics-japan.org

吉川元偉大使は、明石氏、長谷川氏、山本氏と日本人でSRSG(事務総長特別代表)をお勤めになったお三方全員が一堂に会される貴重な機会である。私からは、国連のあり方や改革といった大所高所ではなく、SRSG任命にあたっての国連大使の役割など国連人事の現実に絞ってお話したい。国連憲章100条と101条は、国連職員の中立性や加盟国政府が事務総長(SG)や職員を左右しようとしてはいけないことなどを規定している。しかし、現実に起きていることは、憲章の規定することとはかなり違う。

各国の国連大使は、自国民の国連への送り込みや昇進のためにSGはじめ事務局幹部に日常的に働きかけをしている。日本大使も例外ではなく、むしろ大使の重要な仕事である。働きかけの対象は、いわゆる政治任命ポスト(USG、ASG、D2)が多いが、国によってはP ポストの確保に大使が登場することもあると聞いている。国連の人事は、非常に政治的であるのが現実だ。

SRSGは、USGポストであり、紛争地において国連の代表として行動する重要な職務であり、今日山本忠通氏よりアフガニスタンでのお仕事についてお話を聞いたところからもSRSGの重要性がわかる。日本の関心ある地域にて活動するSRSGは、ぜひ確保したいポストである。山本氏に続く日本人SRSGの任命を願う。

私は国連大使当時、山本氏の任命について当時の潘基文SGに働きかけた訳だが、その詳細は人事に関わることなのでお話できないが、一般論として3点を指摘したい。
1)候補者の人選が重要である。候補者の能力と経験に加えて、ご本人の強い意欲が大事だ。
2)日本政府として当該候補者を支援するとの政治レベルでの決意と行動が必要である。3)国連での働きかけが最も大事であり、その相手は任命権者のSGである。関係する国の首都ベースでの働きかけが必要な場合もある。

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神余隆博元国連大使は、邦人職員増強の人事戦略を論じるにあたって、日本にとっての国連とは、またその反対に国連にとっての日本とは、を考え4050年の長期的国連戦略を持つ必要性を指摘した。中国が、国連内にて様々なポストを獲得してきた成功要因もここにあると論じた。この点に関し、甘利明衆議院議員を中心とする自民党のルール形成戦略議員連盟が邦人職員増強に関する検討を行っており、日本政府との連携を始めたと承知している。今後さらにその方向を推進していくことが必要と の認識を示した。

また、神余大使は、日本はミドルパワーとしての戦略を明確にし、ドイツやフランスなどが主導するAlliance for Multilateralismにもっと深く関与し、リーダー的役割を担っていく戦略を練る必要があることを論じた。

最後に、日本の比較優位として、コロナウィルスの抑え込みにみられるようにパブリックマインドが高いことが挙げられる。この特質は多国間主義を主導していくにあたって有益であるとの考えを示した。

afics-japan.org

服部英二元ユネスコ事務局長顧問は、すでに議論のあった、新しい理事会の設立を日本が主導的に進めて行くことに賛意を示した。また、タリバンについての大島大使の見解を受けて、テロリストとして一面的にみるのではなく、パキスタン領内にサウジアラビアからの資金によって造られたマドラサ(イスラム学校)にて教育されたタリバン(タリブ=学生の複数形)が1994年にカンダハールに現れた時は、一陣の涼風のように受け止められた、しかしイスラム神学生が動員されたあと、年を追うごとに過激派となっていく社会的背景等の理由についても目を向けることが必要ではないかと論じた。

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井上健執行委員・日本国際平和構築協会副理事長は、アフガニスタンにおける平和構築において、タリバンが掲げるいわゆる伝統的価値観と、人権等の普遍的価値観が並立して存在している状況で日本はどのようなスタンスを取るのか改めて考えてみることの必要性を述べた。

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甲木浩太郎内閣府国際平和協力本部事務局参事官は、山本大使の冒頭講演でも指摘のあったピューリサーチセンターの意識調査の結果で日本人の国連に対する支持が大きく低下していることが示されたこととの関係でも、国連における邦人職員増強にしっかり取り組んでいく必要があろう。ASG以上の政治任用ポストを獲っていく上でもD2・D1の層を厚くしていく必要があろうし、そのためP5・P4そしてP3・P2レベルのそれぞれをしっかりと増やしていく手伝いを政府がしっかりと行うことが重要であり、前職でも現在のポストでも国連邦人職員増強に力を入れて取り組んでいると述べた。


そして、日本が国連を通じてまた国連において何を実現していくべきかとの点に関連して、既に何人かの方がご指摘されているとおり人間の安全保障は重要な切り口となると考える。G20大阪サミットプロセスで日本の国際協力を進めて行く理念として人間の安全保障を軸に据えて成果をまとめたが、菅政権でもSDGs推進本部プロセスなどを通じて人間の安全保障に取り組んでいく方向性であると理解している。日本としてこれまでこの理念に関して取り組んで生きた実績の上で、日本らしい中身を一層深めていくことが重要であろう。

最後の点として、人間の安全保障は、人道・開発・平和の連携(Nexus)を導く理念でもあり、内閣府国際平和協力本部としても、PKO法に基づく人的・物的貢献を日本の国際協力全体と有機的に結びつけつつ切れ目の無い支援に取り組んでいく考えである。

日本の貢献として、「人間の安全保障」の概念を再度強調することの必要性を述べるとともに、平和・人道・開発のNexusにつき、その相互関連性の青写真を描くことの重要性を指摘した。

長谷川祐弘AFICS-Japan会長は、日本は国連PKOミッションを立ち上げる可能性も考慮して良いのではないかと述べ、具体的にはミャンマーのロヒンギャ問題に関与する国連の平和構築ミッションを設立して、人間の安全保障の観点から日本がリーダーシップを発揮して平和と安定を実現するアイデアを提起した。

そして今回の討論を総括するにあたって長谷川会長は、参加者が発言された三つの点に言及した。第一には山本大使がアフガニスタンにおいては多様性を重んじてタリバンとも対話を持ち続けることが必要であると同時に、自らが掲げる価値への過信を戒めることも必要であると説いたことは有意義である。第二点として国連は普遍的価値や理念を重んじ公正で人間の威厳を擁護する機関であり、日本はこの点を踏まえた長期戦略が必要である。第三点として日本はミドルパワーとして、現存する安保理の制度の中で常任理事国になることに固執するのではなく、世界の人々の安全を保障する機関として、「人間の安全保障理事会」や「平和構築理事会」の設立に及んだ議論があったと整理した。その意味で長谷川氏は日本がルサンチマンとならずにミドルパワーとして現実的・建設的に国連に関与していく方策をオールジャパンで取り組んでいくことの重要性を説いた。そして長谷川氏は世界の現在の勢力を反映した安保理改革を行うことを提唱した。具体的なアイデアとして、世界の4分の3の経済力とそれ以上の軍事力を擁している19の国とEUから構成されているG20を安保理に鞍替えし、そこにASEAN、AU、OAS、Arab LeagueやNordic Countriesなどの地域機構を加えた25程度のメンバーで構成する新安保理案を提起して議論を締めくくった。

髙瀬千賀子執行委員が今後の行事を案内した。まず、来年の1月16日には国連年金制度に関して、永吉執行委員が国連年金制度に関して講師を招いて説明会を行うと述べた。そして2月6日には、著名な文明論者であり会員である服部英二氏に新著である『地球倫理への旅路 – 力の文明から命の文明』に書かれている主旨を説明してもらうとの案内があった。